ネットリテラシー教育の重要性〜家庭でできるネットリテラシーを高める方法〜

コロナ禍を経て誰もがネットを活用する時代になりました。近年では幼児期の教育からタブレット教育が普及しつつあります。家庭におけるネットリテラシー教育はどのように考えればよいのでしょうか。今回は、関東学院大学 人間共生学部 コミュニケーション学科 教授 折田明子先生に、ネットリテラシー教育の重要性や家庭で出来るネットリテラシー能力を高める方法について伺いました。

折田 明子(おりたあきこ)関東学院大学 人間共生学部 コミュニケーション学科 教授。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学後、博士(政策・メディア)取得。中央大学ビジネススクール助教、Kennesaw State University 客員講師等を経て現職。専門は情報社会学、青少年から死後のプライバシーやリテラシー教育について研究。三人の小学生の親でもある。


関東学院大学 人間共生学部ウェブサイト:https://univ.kanto-gakuin.ac.jp/academics/interhuman-symbiotic-studies.html

個人webサイト:https://www.ako-lab.net/

ネットリテラシーの現状とこれからについて

子どもにネットが普及する前と現代では、ネットリテラシーについての考え方にどんな違いがあるのでしょうか

子どもが使う前は、大人のインターネット利用については、「自己責任で使いましょう」「ルールを学んで使いましょう」という考え方だったかと思います。子どもがネットを使い始めた頃からは、「危険だから気をつける」「あんまり使ってはいけない」という、リスクを強調し安全を守ることが重視されました。また、ネットは匿名性が高いと言われてきましたが、SNSが使われ始めてからは実名も使うし現実の人間関係とも関わるようになりました。その時その時に使われているサービスごとに、気をつけることや使い方に関して考え方が変わってきています

子どもの場合、経験不足で判断できない、犯罪に巻き込まれがちという意味で、どうやって守っていくかということがこれまで前面に出ていましたが、使うのが当たり前になった現代では、小学校に上がる前から「ネットにはこういう可能性があって困ったら一旦止まろうね」というような、何かが起こったときには大人が介入できるように伝えていく方向に変わる必要があると思います。

日本は諸外国に比べて少しデジタル化が遅れているのではないかという指摘もありますが、日本における教育の変化についても教えてください

日本は長らく、ネットのリスクや安全な使い方について学ぶ情報モラル教育が小学生から中学生、高校生を対象に行われてきました。文部科学省も、YouTubeにネット依存や個人情報の拡散に関する教材動画を掲載しています。企業でも、ネット依存になることや情報は一回出したら消えないという危険性を強調した教材を作って啓発をしていました。2020年のコロナ禍の一斉休校によりGIGAスクール構想が前倒しになり、一人一台小中学校に情報端末が配布されました。ネットやデジタルは、個人の生活で使うものから学校の授業でも使うものへ変化が起きたわけです。学校によっては、休校時に連絡や教材を電子的に配信したところもあったようです。

その後は、「デジタル・シティズンシップ」教育として、デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、参加する能力を育てようという方向になっていきました。2022年には経済産業省が学習サイトを設置、2023年には総務省が保護者向けのデジタル・シティズンシップ教材をリリースしました。

出典:総務省「デジタル・シティズンシップ」

子どもや保護者のネットリテラシーが低いことで起こりうるトラブルにはどんなものがありますか

特に心配な事例が、他人の情報漏洩をしてしまうことですね。友達の写真を撮ってネットに載せてしまった場合、掲載した自分のことではなく、他の人のことが残り続けるわけです。学校の名前と顔が分かる写真であれば、個人の特定から犯罪に巻きこまれたり、写真が加工されて拡散されたりするといったように、非常にリスクが高いと思います。

人工知能の発達によって小・中学生にはどのような影響がありますか

生成AIによって作られた間違った情報が検索して結果に表示されてしまい、それを事実と信じてしまうことが一番怖いことですね。調べ学習で検索した時に、本当の中にウソがちょっとだけ入っているというものは、大人でも判断がつかないことがあります。ネットで調べた時に、正しい情報が入手しづらくなってしまうというところが非常に大きな影響だと思います。

家庭で出来るネットリテラシー教育について

近年、SNS上での情報拡散やフェイクニュースの問題について取り上げられていますが、特に保護者に認識してほしいことについて教えてください

残念ながら、子どもには判断ができない、見破ることができない虚偽の情報が多いことを保護者側も知っておく必要があります。調べものをしたときに、今までであれば、信用できる情報にアクセスしやすかったと思います。仮に虚偽の加工画像があっても、すぐに見破れるレベルのものだったのが、最近では大人でも騙されてしまうレベルのものが出回っています。間違った情報がSNSやLINEを介して伝言ゲーム式に伝わっていくことも恐ろしいです。

また、YouTubeからも誤った情報を仕入れてしまいがちです。子どもにとってはYouTubeでやってたから本当のこと!になってしまうので、だからこそYouTubeの仕組みなど伝えることが大切だと思います。例えば、「YouTubeはたくさんチャンネル登録や再生回数でお金が入るから、観てくれてる人の興味を引く内容を作っていることもあるんだよ」など。ネットには本当の情報もあるけど間違った情報もあること、また皆の注目を引こうとしているものもあることを、改めて保護者が認識する必要があると思います。

具体的な対策や教育のあり方についても教えてください

これをしては「ダメ」と一方的にいうよりは、一緒に考えようというのがいいと思います。海外の事例ですが、時間で切れるタイマーを設定したら、スマホのタイムゾーンを変えて時差で時間を増やしたということがあったそうです。過度な制限は、見えないところで使い何かを起こしてしまった時に、保護者に助けを求めてくれなくなるかもしれません。保護者が信用してもらえて、気軽に相談をしてもらうような関係が必要だと思います。例えば、子どもにとって、あまり見てほしくないページを見て叱りつけて取り上げてしまうこともありえると思います。そうすると、子どもは隠すわけです。見てはいけないものを見てしまっていたという気まずさもあるわけですし。子どもが本当に困った時の逃げ道を作っておくことが大切です。「知らないうちにネットサーフィンしてたら、意図しないページに飛んでしまうことあるよね」とか「広告を間違えてタップしちゃうことあるよね」とか話してみる。追い詰めないことで相談しやすくなるかもしれません。

また、夜遅くまでずっとスマホを使っていた時に有無を言わさず取り上げるということはむしろ逆効果でしょう。大人でも何かあった時に友人と長時間話してしまうことがあるように、子どもにもそういったことがあるでしょう。たまたま友達の相談に乗っていたとか。もちろん夜遅くまでスマホを使うことが続くようだったら問題ですし、むしろ何か困っていることがあったりして助けが必要な状況なのかもしれません。ネットを使いすぎてることだけを問題にするのではなく、使いすぎる前のところに注意するのがよいでしょう。

他にも家庭で出来るサポートがありましたら教えてください

思春期になるとオンラインでの対人関係の問題が出てきます。早めに、ネットの人間関係で起こりがちなことを話しておくのは良いと思います。例えば、文字で書いたらどっちの意味にも取れてしまうような事例など、この文章だと笑っているのか怒っているのか分からないことがあるよね?というものを一緒にやりながら練習してみてもいいでしょうね。

また、辛くなったらネットから離れても大丈夫だよという声がけや、タイミングをみて日常の生活で友達とネットでどんなやり取りしてるのかを聞いてみることも大切です。デジタルとリアルをどうやってバランスよく過ごしていくかという考え方でサポートしていくことが必要だと思います。

スマホやソーシャルメディアの使用について、幼児や小学生にどのようなルールを提示することが重要でしょうか

photo AC

幼児期であれば、「長時間ネットを使い続けない」ことが挙げられます。タイマーを設定するなどが良いと思います。見るものも、YouTube Kidsとか、NetflixのKidsなど、子ども向けのコンテンツの設定が必要ですね。幼少期からの習慣は続いていきやすいでしょう。実際、我が家は幼少期からネットの利用を基本50分単位で区切るようにしていて、それが小学生になってからも続いています。

小学生くらいになると時間の管理以外にも、マルチプレイゲームを行う時の注意点も事前に伝える必要があると思います。マルチプレイゲームを行う時には、「このゲームでは友達じゃない人ともつながるよ」や「実名がわからない名前をつかおう」と大人が説明をしていく必要はあるかと思います。あとは小学生高学年でも、12歳以上の利用が推奨されているLINEをどうしても使用したいという場合、最初の設定を一緒にやるのがいいと思います。加えて多くのSNSは小学生では利用できないことを予め伝える必要もあります。中学生になってSNSを使い始めるときも「友達だけに知らせたいんだったらこういう設定になるし、みんなに伝えたい時には自分のことは書いちゃいけないよね」というようなことは徐々に伝えていくべき内容だと思います。あと冒頭にお伝えした写真の取扱いです。「一度ネットにあげたものは消えないよ」という、ことはハッキリ伝えルールを一緒に考えることは大事であると考えます。

折田先生からのメッセージ

子どもが経験できる機会を尊重しながら、リスクを減らしていくっていうことが大事なことであると思います。保護者は「全部ダメ」「やめときなさい」って言いたくなるのですが、子どもが撮った写真をみんなに見せたい時に、どこで共有するんだったらいいだろうかとか、名前はこういうふうに設定してここまでは書いてもいい内容だよねなど、保護者がサポートしてあげて安全にデジタル経験を一緒にしていくのが良いのではないかと思います。

折田明子先生を詳しく知りたい方はこちら

関東学院大学 人間共生学部ウェブサイト:https://univ.kanto-gakuin.ac.jp/academics/interhuman-symbiotic-studies.html

折田明子先生 業績一覧はこちら:https://www.ako-lab.net/

編集部コメント

具体的な事例や子どもに対する声かけの内容についても分かりやすく教えて頂きました。ネットの危険性ばかりを伝えがちですが、ネットとどうやって共存していくのか子どもと話をして互いに納得しながら活用するのが大事なんだなと思いました。お話を伺う中で耳が痛くなることもたくさんありましたが、子どもに提案しながら徐々にネットリテラシーを親子で高めてしていきたいです。