家庭でできる子供の感染症対策〜運動と免疫の関係性〜

COVID-19の感染拡大があってから、感染症対策は子供をもつ保護者にとって、依然として興味の高いテーマではないでしょうか。感染症対策といえば、マスクや手洗い、うがいなどが思い浮かびますが、「免疫力を高める」ことも感染症対策の重要なポイントです。今回は、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の鈴木克彦先生に、免疫力の高め方や運動の重要性について伺いました。

早稲田大学鈴木克彦先生の顔写真

鈴木克彦(すずきかつひこ)早稲田大学スポーツ科学学術院教授。早稲田大学大学院人間科学研究科修了後、弘前大学医学部卒業、国立国際医療センター病院内科系臨床研修課程修了。2003年早稲田大学人間科学部専任講師、2008年早稲田大学スポーツ科学学術院准教授、2013年より現職。早稲田大学保健センター・スポーツ医科学クリニック内科医師を兼務。専門分野は、予防医学、運動免疫学、応用生理学。
早稲田大学スポーツ科学部ウェブサイト:https://www.waseda.jp/fsps/sps/

近年の感染症やスポーツを取り巻く環境について

コロナ以降、インフルエンザの感染が増えていますが、コロナの感染対策によって免疫力が低下しているのでしょうか?

コロナウイルスの感染症対策によって我々の免疫力は低下したと言えると思います。コロナウイルス流行当初は、重症化すると言われほとんどの方が厳重な感染対策をしていましたよね。そのためその期間は、インフルエンザの感染者も少ない傾向がありました。

一方、我々の体はさまざまな感染症に軽く感染しながら免疫を維持しているところがあります。コロナ禍の厳重な感染対策によって、感染する機会が奪われてしまいました。免疫力が低下した状態で、マスクをしない生活になったために、インフルエンザなどの感染症が流行する事態になっています。

また、インフルエンザの感染拡大の背景には、世界規模での人の移動も関係しています。今年に入り多くの旅行者が海外から来日しています。日本が夏の時期、オーストラリアなどの南半球は冬にあたりますが、冬の南半球でインフルエンザがかなり流行していたようです。海外からの来日者によってインフルエンザウイルスが持ち込まれたということも、感染拡大の要因と考えられます。

地域スポーツや部活動などが盛んに行われていたコロナ前と現在では子供たちの運動レベルに関して違いはありますか?

コロナ禍の外出制限や活動制限の影響で、子供たちの運動レベルは低下傾向にあると言えるでしょう。実際に、スポーツ庁が公表した2022年度の全国体力テストの合計点は、小中学生の男女共に過去最低の点数でした。

2022年度全国体力テストの結果
2022年度の小中学生の肥満度

出典:スポーツ庁 令和4年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果

また同調査から、小中学生の男女共に肥満の割合が増加していることもわかりました。別の調査でも血液検査を実施した小学5年生の20人に1人が高コレステロール血症に該当していたという報告もあり、運動不足に加えて栄養の摂りすぎが重なった影響だろうと考えられています。

コロナ禍に運動する機会が制限されてしまった弊害の一つといえると思います。

運動と免疫の関係性について

免疫力が低下する主な原因について教えてください。

免疫にとって一番良くないのはストレスなんですね。

まず、身体的なストレスで言えば、激しい運動はストレスになり、免疫力を下げてしまいます。適度な運動は問題ないですが、やりすぎには要注意です。次に精神的なストレス。子供にとって嫌なことが長期間続いているような環境は、免疫力の低下に繋がってしまいます。

アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンは、身体的・精神的ストレスがかかると分泌されます。ストレスホルモンはエネルギー代謝を高める作用がありますが、免疫にとっては免疫力を低下させる方向に働くことがわかっています。

そのため、免疫力を落とさないためには、身体的にも精神的にもストレスをかけないということが大事かと思います。もちろん、子どもがいろいろなことに挑戦する場面では、ストレスも必要なので、適度にやっているうちは問題ないです。あまりに強すぎるストレスが長期間続くような場合には注意が必要でしょう。

家庭でできる免疫力の高め方

感染対策として運動を取り入れる場合、家庭でもできる具体的なものはありますか?

子供の場合は、放っておいても体を動かしているというのが大人とは大きく異なる部分なので、特に外遊びなどでどんどん遊んでもらうのが一番かと思います。遊具のある学校や公園は、色々と身体を動かす機会になり手軽に全身運動ができます。また、子供の場合楽しくないと続きませんので、外遊びが十分にできる時間を確保してあげるとか、設備の整った公園に連れて行くといったことは保護者側ができる工夫ではないかと思います。

免疫の観点で言うと、筋肉を鍛えるような運動をすると免疫力の向上が期待できます。免疫細胞のリンパ球はアミノ酸をエネルギー源として使っています。そのアミノ酸は筋肉に蓄えられるので、筋肉をたくさんつけている人というのは、免疫細胞のエネルギー源が体の中にたくさんあるということになり、免疫学的に見ると有利なのです。免疫力をあげるという点では、筋トレみたいなことも必要ですので、子供の遊びの中でいうと、うんていや鉄棒なんかも良いと思いますよ。

それから、普段の生活の中で身体活動量を増やすことを意識してほしいと思います。エレベータを使わず階段を使うとか、習い事へは車の送迎でなく歩いて行くとか、日常の生活の中で身体を動かすことを親が率先して取り入れてみてください。

運動以外で家庭でできる感染症対策はありますか?

一般的なうがい、手洗い、マスクなどの感染症対策以外でいうと、栄養と休養が大切かと思います。

栄養面では、炭水化物・タンパク質・脂質をバランスよく摂れる食事を心がけてほしいです。子供の将来は長いですから、小さいうちから身体に良い食事というのをご家庭で一緒に学んでほしいと思います。

また、十分な休養が取れていないと疲労が蓄積し免疫力が低下してしまいます。しっかり身体を休ませる、とくに睡眠時間を十分に確保できる生活リズムを保護者が整えてあげることが大切かと思います。

感染対策を頑張っている保護者の方へメッセージをお願いします。

共働きも増え、時間的に余裕のないご家庭も多いかと思いますが、運動や栄養は子供のこれからの長い人生において、とても重要なものだということを忘れないでほしいです。

ご家庭での運動が難しい場合には、地域のスポーツクラブに通わせるのも一つの方法かと思います。しっかり身体を動かせますし、保護者以外との人間関係や社会のルールも学べる貴重な場かと思います。

また、食事に関しても全部手作りしようと気負わずに、コンビニなどで栄養のバランスに配慮されたお弁当を買ってくるのも良いと思います。

子供の人生はまだまだ長いですから、運動も栄養も長続きできるように、頑張りすぎずにできるものを取り入れてみてほしいです。

鈴木克彦先生を詳しく知りたい方はこちら

早稲田大学スポーツ科学学術院ウェブサイトはこちら https://www.waseda.jp/fsps/

鈴木克彦先生 業績一覧はこちら https://w-rdb.waseda.jp/html/100000637_ja.html

編集部コメント

免疫力を高めるためには、運動・栄養・休養が大切であることがよくわかりました。鈴木先生の「頑張りすぎず長続きできるものを取り入れて」というお言葉がとても温かく、できそうなことから取り入れてみようと思えました。毎冬子どもの感染症に振り回されている我が家ですが、今年の冬は免疫力を高めて家族みんな元気に乗り切りたいです。