子供の英語学習をサポートする〜第二言語習得の観点から〜

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小学校での英語教育の必修化を受け、お子さまの英語学習に不安を感じている保護者も多いのではないでしょうか。また、「英語を身につけてほしい」と早期から英語を習わせるご家庭も増えています。そこで今回は英語教育や第二言語習得がご専門の明治大学廣森友人教授に、英語を学習する上で知っておくべきことや、お家でできる英語学習のポイントを教えていただきました。

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廣森友人(ひろもりともひと)明治大学国際日本学部教授。北海道大学大学院国際広報メディア研究科博士課程修了、専門分野は応用言語学、心理言語学、第二言語習得研究。『英語学習のメカニズム:第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』、『「学ぶ・教える・考える」ための実践的英語科教育法』(ともに大修館書店)他、著書・論文多数。
明治大学ウェブサイト:https://www.meiji.ac.jp/index.html
廣森友人ウェブサイト:https://hiromori-lab.com/

近年の日本の子供の英語力に関して

小学校での英語必修化がスタートして数年経ちますが、小中学生の英語力に向上はみられますか?

必修化がスタートしたのは2020年と間もないため、全国規模のテストのような形で示せるデータはまだ少ないと思いますが、文部科学省が毎年実施している英語教育実施状況調査をみると、中学生の英語力には向上がみられます。

文部科学省令和4年度英語教育実施報告書
出典:文部科学省 令和4年度「英語教育実施状況調査」概要

ただ、小学校での英語の必修化は、テストの点数が向上するというよりは、英語を使ったコミュニケーションの土台ができるという部分に大きな意味があると思っています。

小学校での英語教育は、言語活動(実際に英語を用いて互いの考えや気持ちを伝え合う)に重きを置いていて、9割以上の学校が英語学習の半分以上の時間を言語活動に使っています。

言語活動によって、英語を発することへの抵抗感が下がることが期待できますし、子供は聞いたまま発音できたり、間違っても気にせず話したりしますので、小学校での英語学習が後々の英語力の土台になってくることは期待できます。

英語習得が難しい理由

英語を習得する上でのハードルは何でしょうか?

そもそも英語と日本語は、言語として大きくかけ離れています。日本人が英語を難しいと思うのと同様に、英語を母語とする人にとっても日本語は最も習得するのが難しい言語の一つに数えられているんです。

英語を母語とする人が日本語を習得するには2200時間かかると言われているので、逆に日本人が英語を使えるようになるのにも2200時間程度は必要と言えるでしょう。日本人の小学校から大学までの平均の英語学習時間はおよそ1480時間なので、残念ながら圧倒的に勉強時間が足りていません。

加えて、日本人は日本に住んでいると英語ができなくても生活できますよね。日常的に英語を使う環境にいないというのも英語習得が難しい理由の一つです。その点、留学などで海外にいくと英語ができないと生活ができないので、生活がかかっているという環境の方が、やらなきゃ!というモチベーションにはなりやすいといえます。

家庭での英語学習をサポートするポイントについて

子供の英語学習が長続きするモチベーションにはどんなものがありますか?

大人でもモチベーションの維持は簡単なことではないので、なかなか難しいですけど・・・

特に子供で大事なのは、楽しいと思ってもらうことだと思います。楽しくないと続かないので、ゲームや歌、絵本など楽しいと思ってもらえるものを使うと良いと思います。YouTubeの英語の動画なんかも良いですね。

もう一つ大事なのは、日常生活や興味関心があるものに関連しているかどうかということです。子供の好きなものと関連づけて英語を取り入れられないか考えてみてください。

英語学習においてインプットとアウトプットのバランスはどのように考えるべきでしょうか?

言語習得においては、インプットがないと始まりません。赤ちゃんが言葉を話す過程をみてもわかるように、大人がどんどん話しかけて、初めはただ真似をするところから、頭の中で処理して意味のある言葉としてアウトプットするようになりますよね。

また、もともとのインプット量が少なければ,アウトプットできる量はそれよりもはるかに少ないので、とにかくインプットが大事です。インプットの量が多ければその分アウトプットできる量も増えていきます。

お家でできる英語学習のポイントがあれば教えてください

毎日の生活の中に組み込めるといいですね。例えば、大好きなアニメの動画を英語で見てみるとか、買い物リストを英語で書いて一緒に買い物に行くとか。

手軽なインプットとしては、NHKのラジオ番組やテレビ番組もおすすめです。子供向けからビジネス英会話まで幅広いプログラムがあります。海外の研究者と話をしていても、NHKほどラインナップが充実していて安価な英語プログラムは見たことがないと聞きます。1プログラムが10〜15分と短いのも続けやすいポイントだと思います。

また、絵本もよいですね。今は音声付きのオーディオブックなどもありますから、英語に自信のないお父さんお母さんでも取り入れやすいのではないでしょうか。

「英語への抵抗感をなくしてほしい、英語を身につけてほしい」と願う保護者向けにメッセージをお願いします。

明治大学廣森教授

英語を勉強や学習と捉えてしまうと、間違ってはいけない、間違いを正してあげないといけないというマインドになりがちです。間違ってもいいから親子で楽しくやるというのを大切にしてほしいです。

また、言語を習得する上で間違うことは自然なプロセスだということを、ぜひお父さんお母さんには知っておいてほしいです。

言語習得の発達プロセス

言語習得の発達プロセス
出典:廣森友人 (2023). 『改訂版 英語学習のメカニズム: 第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法』 東京: 大修館書店. 

言語を習得するまでには、図のように第1〜3段階があり、各段階で言語の正確さは変わっていきます。

最初(第一段階)は、とにかく聞いたものをそのまま覚えて言う、単なる暗記なので正確性は高いです。

暗記したものが言えるようになってくると、第二段階では言語の規則を学んで使うようになってきます。例えば、英語の過去形には-edをつけるという規則を学んで使おうとして、「go」の過去形を「goed(正しくはwent)」と言ってみたり、「break」を「breaked(正しくはbroke)」と言ってみたり、第二段階では一度正確性が低くなります。

その後、過去形の-edには例外があると学び、実際に使えるようになる第三段階では、再び正確さが高くなってくるのです。

日本人は完璧主義なので、間違いをダメだと思ってしまう人も多いですが、間違いは進歩の過程なんだという心構えで、親のハードルも下げながら、親子で楽しく英語に触れていってほしいなと思います。

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編集部コメント

英語習得の難しさやインプットの重要性など、大変興味深いお話をお伺いできました。

「言語習得の過程では間違うことは当たり前」とお聞ききし、親側の英語へのハードルが下がったように思います。子供の好きなものに関連づけて、楽しみながら一緒に英語に触れる機会を作っていきたいなと思いました。